16歳くらいの頃、バンドのミニコミかなんかで繋がったお姉さんが居た。
当時は住所や電話番号なんかを雑誌やフライヤーに載せるのが割と普通だった。
バンドのメン募なんかはライブハウスの階段の壁に山ほど貼ってあり、
B5のコピー用紙には固定電話の番号が小さくいくつも書かれていてちぎって持って行けるようになっていたようなおおらかな時代。
彼女は20代後半くらいだったと思う。代々木あたりだったか、建築デザインか何かの会社で働いていて、マンションの一室にある彼女の勤め先に遊びに行ったりしていた。社長らしき人とスタッフは5人くらい。
仕事や作品を見せてもらえばいいのに大した会話の記憶もなく、大きな本棚を漁ったり、これまた大きな椅子に座ってぼんやりしているだけだった。
でも学校帰りに寄ったりしていたのは、居心地が良かったのだと思う。
ある時ぐっすり眠ってしまい、皆の笑い声で起きたことがあったが、宮沢りえのサンタフェを抱えてぐーぐー寝ていたのだった。
お姉さんはよく演劇やライブに誘ってくれて、新宿界隈で彼女の友人達に混じって遊んだ。いつも夜風が気持ち良かった印象。
だけど、連絡先どころか彼女の名前すら一切覚えていない。
おもしろい大人がたくさんいた。
皆おしゃれで親切で優しかった。だけどほとんど名前を覚えていない。
あだ名だけで名前すら知らない人も居たが、そのあだ名もなかなか思い出せない。
思い出すのは、笑っている時の顔だったり仕草だったり、いいなと思った洋服の柄だったり。
みんな、どうしているんだろうか。
現在のようにツールが無い時代、様々な変化によってぱったり会わなくなると、連絡が不可能になる。
でも、それでいいかなと思う部分もある。
なんか煩わしくないし、頭の中で埃だらけになった記憶や想い出を、たまに取り出してぼんやりと眺めるのもいいものかなと思う。
そんな風に自分のことも「あんな奴いたな」とふと思い出してくれていたら、とても嬉しいな。